本文

今年は白居易『白氏文集』の「策林」からの出題です。問題文にあるように、制挙(皇帝が行う臨時任用試験)の予想問題です。本文は以下の通り。

問、自古以来、A君者無不思求其賢、賢者罔不思効其用。然両不相遇、其故何哉。今欲求之、其術安在。

臣聞、人君者無不思求其賢、人臣者無不思効其用。然而君求賢而不得、臣効用而(ア)無由者、B豈不以貴賤相懸、朝野相隔、堂遠於千里、門深於九重

(イ)以為、求賢有術、(ウ)賢有方。方術者、各審其族類、使之推薦而已。近取諸喩、C其猶線与矢也。線因針而入、矢待弦而発。雖有線矢、苟無針弦、求自致焉、不可得也。夫必以族類者、蓋賢愚有貫、善悪有倫、若以類求、DX以類至。此亦猶水流湿、火就燥、E自然之理也

白居易『白氏文集』

問題と解説

問1

語句の意味を答えさせる問題。

(ア)無由

「無由」は「由(よし)無し」と訓読します。現代語でも使いますね。これだけで1と3に絞れそうですが一応本文をちゃんと見ましょう。

「君求賢而不得」と「臣効用而無由」が対句になっていることに注意しましょう。「君主が賢者を求めても得られない」のであれば、「臣下が力を尽くそうとしても」「できない」という意味の言葉が入ればいいことがわかります。正解は1「方法がない」です。

「効用」は「力を尽くす」という意味ですが、知らない人が多かったと思います。「君主が賢者を求める」と意味が対になっていることがわかれば、賢者が君主に「力を尽くす」「役に立つ」のような意味になることが類推できると思います。

このように、漢文では対句が重要です。

(イ)以為

これは解けてほしいですね。「以為(おも)へらく」と訓読し、「考える」という意味です。漢文の文法としては「以為」で一つの動詞であり、その後に来る目的語が考える内容となっています。正解は1「考えるに」です。

(ウ)弁

これは少し難しかったでしょうか。これも、対句を意識して下さい。「求賢有術」と「弁賢有方」が対句になっていますね。「賢者を求めるに方術がある」と「賢者を???するに方術がある」が対句になっています。「術」も「方」も、「方術」という言葉があることを思い出せば同じ意味であることがわかると思います。「賢者を求める」と「賢者が???する」が同じ方向性の意味であることが分かれば、選択肢1~4は全て不適当なので正解は5「弁別する」であることが分かるでしょう。

「弁別」という言葉は言語学ではよく出てきますが、受験生にとっては難しいでしょう。しかし、1~4は明らかにおかしいこと、「弁別」の「別」が「区別」の「別」であることが分かれば解けると思います。

問2

「君者無不思求其賢、賢者罔不思効其用」の意味を答えさせる問題です。

ここも対句ですね。「無不」は二重否定構文なので、結果的に肯定と同じ意味になります。対句の相手である「罔不」についても同じです。「罔」には「なし」とルビが振ってあるので、難しくはないでしょう。

「思求其賢」が「賢者を求めたい」ということなので、「思効其用」も何か対応することを「したい」ということがわかります。正解は3「君主は賢者を登用しようと思っており、賢者は君主の役に立ちたいと思っている」です。

問3

「豈不以貴賤相懸、朝野相隔、堂遠於千里、門深於九重」の訓読・書き下しを問う問題です。

まず、「豈不」が「〜ではないか(いや〜だ)」という否定の反語であることに注意して下さい。要は、「豈不」以下に書かれていることが肯定の意味になります。

「以」は理由を表す前置詞です。「〜者、以〜」という定型表現で、「〜なのは、〜からである」という意味を表します。ここでは、上の「君主が賢者を得られず、賢者が君主に力を尽くせない」部分の理由を述べているわけです。

そして、「貴賤相懸」と「朝野相隔」、「堂遠於千里」と「門深於九重」がそれぞれ対句であることは明らかだと思います。ですから、この対句が言い終わらないうちに上の「以」に返るということはありえません。ですから、それぞれの対句の前半部である「貴賤相懸」の直後に「以」に返る選択肢1、「堂遠於千里」の直後に「以」に返る選択肢3、4は誤りだということになります。

このため、選択肢2と5に絞り込めるわけですが、「貴賤相懸、朝野相隔」と「堂遠於千里、門深於九重」は結局同じことを言っています。どちらも、要は「朝廷と民間が非常に遠い」ということを言っているのです。ですから、最後まで理由であると解釈している選択肢5「豈に貴賤相懸たり、朝野相隔たり、堂は千里よりも遠く、門は九重よりも深きを以てならずや」が正解です。

問4

「其猶線与矢也」の「線」と「矢」の意味を問う問題です。

「線」は「針」、「矢」は「弦」の協力を得てようやく用をなせます。しかし、「線」「矢」単体では、使い物になりません。ですから、正解は選択肢1「『線』や『矢』は、単独では力を発揮しようとしても発揮できないという点」です。

問5

Xに入る字を答えさせる問題です。「若〜必〜」で、「もし〜ならば、必ず〜である」という意味を表す定型表現です。英語で言う「if~, then~」ですね。明らかに「同類を求めたら同類を得られる」ことが言いたいことから考えても、正解は選択肢3「必」です。

構文や文脈がわからなくても答えられる方法を。まず選択肢5「嘗」は意味不明なので消えます。選択肢1「不」はいうまでもなく否定ですが、選択肢2「何」と選択肢4「誰」は反語になるので、意味としては1と同じく否定です。つまり、選択肢1、2、4は全て同じ意味になってしまいます。答えが複数になるということはありえないので、消去法として結果的に選択肢3が残るのです。

問6

「水流湿」と「火就燥」はもちろん対句です。どちらも同じこと、すなわち「性質が近いものが求め合う」ということを述べています。ここで注意しなければならないのは、「水」と「湿」、「火」と「燥」の関係については述べられているものの、「水」と「火」の間の関係については何も述べられていないということです。この点で、「水」と「火」に関係があるように書いてある選択肢1、2は消えます。

選択肢5の「長所」「短所」については本文に書かれていませんね。誤りです。

選択肢3はそれっぽいですが、「川の流れが湿地を作り山火事で土地が乾燥する」は完全に誤りです。正しくは「湿地に川が流れ、乾燥地で火事が起こる」のであり、因果関係が逆です。漢文に限らず共通テストの国語は、因果関係を逆転させた選択肢が罠としてよく仕掛けられているので注意しましょう。

正解は選択肢4「水は湿ったところに流れ、火は乾燥したところへと広がるように、性質を同じくするものは互いに求め合うのが自然であるということ」です。

問7

選択肢1は「採用試験をより多く実施する」ことは本文に書かれていないので誤りです。

選択肢2は「心が離れている」「心理的距離」などは本文に書かれていないので誤りです。

選択肢5は「君主が賢者を受け入れない」は誤りです。君主が賢者を求めていることは本文で繰り返し述べられています。

選択肢3は迷いそうですが、「その賢者が党派に加わらず、自分の信念を貫いているかどうかを見分けるべきである」は誤りです。むしろ、党派の重要性を述べています。

正解は選択肢4「君主が賢者と出会わないのは、君主が賢者を見つけ出すことができないためであり、賢者を求めるには賢者のグループを見極めたうえで、その中から人材を推挙してもらうべきである」です。

総評

今年度は、暗記が必要な複雑な文法事項はほとんど出題されていない一方で、漢文に読み慣れていないと難しかっただろうという印象です。

特に、対句の理解が今回の最重要ポイントでした。対句は漢詩のみならず、散文においてもよく用いられます。気をつけましょう。

なお、本ページの内容は私に断り無く引用していただいて結構ですが、必ず出典(本ページのURL)は明記して下さい。